川原の清流だけを見て帰路につくのは、この地の魅力を半分見落としていると言わざるを得ない。川沿いに整備された約2キロメートルの遊歩道は、かつての原生林の面影を色濃く残す見事な樹木群に覆われている。
特筆すべきは、幹周り数メートルに達するトチノキやミズナラの巨木たちだ。湿潤な渓谷気候が育んだ分厚い苔の絨毯が樹皮を覆い、見上げれば葉擦れの音とともに緑の天蓋がどこまでも広がる。春から初夏にかけては、絶滅が危惧されるオオバヤナギの自生地として清楚な花が揺れ、秋にはカエデやウルシが水面を燃えるような赤と黄色で染め上げる。渓流の轟音が散策路を進むにつれて心地よい低音のハミングへと変わり、鳥のさえずりとシンクロする。自然観察指導員が「歩くだけで呼吸が深くなる」と語る通り、そこには五感を丸ごと浄化するような森林浴の醍醐味が息づいている。