通夜会場の受付前で「数珠を忘れたから貸して」と声をかけ合っている光景を見かけることがあります。しかし、寺院関係者や葬祭ディレクターが一様に「絶対に避けてほしい」と口を揃えるのが、数珠の貸し借りNGの理由です。
数珠は単なるアクセサリーや装飾品ではなく、持ち主自身の「分身」であり、魂の拠り所とされています。日々の祈りや功徳、個人の厄を一身に引き受けてくれるプライベートな法具であるため、他人の数珠を使うことは、他人のカルマ(業)を背負い込む、あるいは自身の不浄を相手の仏具に移してしまう行為に通じると解釈されてきました。仏教の教義上、夫婦や親子であっても共有は固く戒められています。
では、通夜や告別式の現場で数珠を忘れてしまった場合、どう振る舞うのが正しいのでしょうか。
葬儀で数珠を忘れた時の対処法における最善手は、「何も持たずに素手で合掌する」ことです。数珠がないからといって参列を断られることは一切ありません。焼香台の前では、両手を胸の前で静かに合わせ、指先を揃えて深く一礼を捧げます。無理に他人の数珠を借りて形骸的な礼儀を繕うよりも、自らの身ひとつで故人を心から悼む姿勢こそが、仏教の精神に最も適った作法です。