甲本雅裕を語る上で欠かせないのが、実兄である甲本ヒロト(THE BLUE HEARTS、THE HIGH-LOWS、ザ・クロマニヨンズ)との血縁関係です。日本ロック界の頂点に君臨するカリスマボーカリストの兄と、名バイプレイヤーとして不動の地位を築いた弟。この2人が岡山県岡山市にある老舗の「甲本クリーニング店」の息子として育ったという事実は、ファンの間でも非常に有名なエピソードです。
地元に根付いたクリーニング店で、衣服を丁寧に洗い、アイロンを当てる両親の背中を見て育った兄弟。一見すると、激しいロックンロールとストイックな演劇という全く異なる表現手法を選んだように思えますが、その根底には「自らの身体ひとつで魂を届ける」という共通の職人気質が流れています。
注目すべきは、彼らが互いの看板を安易に利用し合わなかった点です。芸能界において「有名ミュージシャンの弟」という看板は、初期の知名度獲得には役立つかもしれませんが、同時に重い先入観という足枷にもなります。甲本雅裕は下積み時代、兄の名前を自ら前面に出すことは決してせず、純粋に小劇場のオーディションと演技力のみでステップアップを果たしました。
公式な形での記念すべき初共演が実現したのは、デビューから長い年月を経た2004年のことでした。ポッカ「キレートレモン」のテレビCMにおいて、甲本雅裕が出演し、CMソングを当時ヒロトが率いていたTHE HIGH-LOWSが担当するという形で、間接的ながら鮮烈な兄弟コラボレーションが成立したのです。さらに2005年公開の映画『リンダ リンダ リンダ』では、THE BLUE HEARTSの楽曲をコピーする女子高生バンドを見守る軽音楽部顧問教師役として雅裕が出演し、映画ファンと音楽ファンの双方を熱狂させました。
「兄は兄、自分は自分」という明確な敬意と適切な心理的距離感。互いの表現領域を侵さず、プロフェッショナルとしてリスペクトし合う成熟した兄弟関係は、エンターテインメント業界における理想的な兄弟像として称賛を集めています。