漫画界における最大の驚きの一つが、板垣巴留の父親が格闘漫画の金字塔『グラップラー刃牙』シリーズの生みの親である板垣恵介であるという事実です。
週刊少年チャンピオン(秋田書店)という同一の雑誌で、父親が看板作家として君臨するなか、娘である板垣巴留が連載をスタートさせたという事実は、一見すると「コネや優遇」を想起させかねない構図でした。しかし、実態は正反対の過酷な実力勝負でした。
板垣巴留は持ち込みや連載立ち上げの際、編集部内でもごく一部の幹部を除いて血縁関係を完全に秘匿していました。「板垣恵介の娘」というレッテルが貼られれば、どんなに面白い作品を描いても「親のおかげ」と評価され、逆に失敗すれば親の看板に泥を塗ることになるという強いプレッシャーが存在したためです。
この沈黙が破られたのは、2019年10月のことでした。『BEASTARS』が第11回マンガ大賞2018をはじめとする名だたる漫画賞を総なめにし、名実ともにトップランナーとなったタイミングで、週刊少年チャンピオンおよび女性漫画誌『Kiss』の誌上にて初の公式親子対談が実現しました。
対談の中で板垣恵介は、「一人前の表現者として認められるまで公表しない」という約束を娘と交わしていたことを明かし、巴留の圧倒的な構成力とストーリーテリングを「嫉妬するほどの実力」と手放しで絶賛しました。父娘でありながら、互いを一人の独立したプロ作家としてリスペクトし合うその関係性は、多くの読者と業界関係者に深い感銘を与えました。