旅行クイズや地理の試験で最も頻出する引っかけ問題の一つが、「トルコの首都はどこか」という問いです。多くの人が「イスタンブール」と即答してしまいますが、現在の正式な首都は内陸部のアナトリア高原に位置する「アンカラ(Ankara)」です。
なぜ世界屈指の知名度と歴史を誇るイスタンブールではなく、当時は寒村に過ぎなかったアンカラが首都に選ばれたのでしょうか。そこには近代トルコの父と呼ばれるムスタファ・ケマル・アタテュルクによる、冷徹な軍事・地政学的判断がありました。
かつてオスマン帝国の首都として1600年以上にわたり栄華を極めたイスタンブール(旧称コンスタンティノープル)は、ボスポラス海峡に面した海洋都市ゆえに、第一次世界大戦時には連合国軍の艦隊によって容易に制海権を握られ、占領を許すという致命的な弱点を露呈しました。独立戦争を指揮したアタテュルクは、外国勢力からの侵略を受けにくいアナトリア半島の強固な中心部であり、防衛拠点として極めて堅牢なアンカラを1923年の共和国建国とともに新首都に制定したのです。
現在のアンカラは、巨大な大統領宮殿、国会議事堂、各国大使館が整然と立ち並ぶ政治・行政・防衛の司令塔です。一方で、イスタンブールは金融、商業、ファッション、メディア、観光の絶対的中心地として君臨し続けています。アメリカで言えば「ワシントンD.C.とニューヨーク」、オーストラリアで言えば「キャンベラとシドニー」のような明快な住み分けが成立しています。
ネット上の旅行コミュニティ等では「アンカラは見どころがない」と切り捨てられるケースも散見されますが、これは明確な誤解です。アタテュルクが眠る壮大な霊廟「アタテュルク廟」や、ヒッタイト帝国をはじめとする太古の出土品を一堂に集めた「アナトリア文明博物館」など、歴史愛好家にとっては外せない至高の学術都市でもあります。