全国の都道府県でサイゼリヤが存在しない「空白県」の話題が出るたび、四国各県や島根県とともに名が挙げられていたのが鳥取県でした。ネット上では「採算が取れないから敬遠されているのではないか」「ファミレス文化が根付かないのではないか」といった憶測が飛び交っていましたが、真相は全く異なる次元にありました。最大の障壁は、同社が誇る驚異的なコストパフォーマンスを支えるサプライチェーン物流網と自社工場配送ルートの制約です。
サイゼリヤの経営幹部が過去の決算説明会や各種業界取材で繰り返し言及してきた通り、同社の生命線は「自社直営工場からのチルド・デイリー配送」にあります。看板メニューであるミラノ風ドリアやフレッシュサラダ、特製ドレッシングなどは、冷凍ではなく新鮮な冷蔵状態で各店舗へ毎日届けられます。西日本エリアにおける主力供給拠点は兵庫県三木市などの自社工場群ですが、そこから中国山地を越えて鳥取・島根エリアへ向かうルートは、トラックの走行距離や中継効率の観点から極めてコスト負担が大きいエリアでした。
1店舗や2店舗のためだけに専用の長距離冷凍冷蔵車を毎日走らせれば、自慢の300円〜500円という低価格帯を維持することは不可能です。サイゼリヤが出店を決断する絶対条件は、「一定地域内に複数店舗を配置し、配送効率を最大化できるドミナント体制が組めること」。兵庫・岡山・広島などの山陽側で強固な店舗網を築き、山陰側への物流中継ハブが整うまで、鳥取進出は経営戦略上「待ち」の姿勢を取らざるを得なかったのが客観的な事実です。