低ナトリウム血症の病因は多岐にわたり、体液量(全身の水分量)が「減少しているか」「正常か」「増加しているか」によって全く異なるアプローチが求められます。なかでも鑑別が重要となる代表例が、「水中毒」と「SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)」です。
過剰な水分摂取によって発症する「水中毒(多飲症による低ナトリウム血症)」は、精神疾患を背景とした強迫的な飲水のほか、猛暑下での激しい運動時に大量の真水を短時間で摂取した際にも生じます。腎臓が1日あたりに排泄できる水分の限界(健常成人で約10〜15リットル、高齢者では数リットル程度)を超えて水分が流入すると、細胞外液が急速に希釈され、中枢神経が水浸しになる危険な病態です。
一方で、外見上の浮腫や脱水所見が一切見られないにもかかわらず低ナトリウム血症が進行するのがSIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)です。体内の水分量を一定に保つためのホルモン(バソプレシン)が、浸透圧低下のシグナルを無視して暴走・分泌され続ける病気です。原因としては、肺がんなどの悪性腫瘍、脳出血や頭部外傷といった中枢神経疾患、あるいは先述した薬剤の副作用が挙げられます。SIADHの正確な診断には、尿浸透圧、血漿浸透圧、尿中ナトリウム濃度を同時に測定し、副腎皮質機能低下症や甲状腺機能低下症を慎重に除外する厳密なプロセスが必要です。