純米大吟醸のグラスに顔を近づけると、米から造られたとは思えない、リンゴや洋梨、メロン、バナナを想起させる瑞々しい香りが立ち上ります。これがフルーティーな吟醸香の特徴です。
この香りの正体は、酵母が過酷な環境で生成するエステル化合物です。主にリンゴのような爽やかさを生む「カプロン酸エチル」と、バナナのような甘やかな芳香をもたらす「酢酸イソアミル」の2成分で構成されています。米を限界まで磨き、デンプン以外の栄養分を削ぎ落とした状態で、5度〜10度前後の極低温で約1ヶ月かけてゆっくり発酵させることで、飢餓状態に置かれた酵母が自己防衛のようにこの甘美な香りを生み出すのです。
この繊細な香りと味わいを余すところなく堪能するには、美味しい飲み方と適正温度(冷酒)のコントロールが鍵を握ります。
ベストな温度帯は10℃〜12℃前後(花冷え)です。冷蔵庫(約5℃)から取り出して10分ほど置き、グラスの表面に微かに結露が生じるタイミングが理想的な状態といえます。5℃未満まで冷やしすぎると、人間の舌は甘みや旨味を感じにくくなり、せっかくの吟醸香も分子運動が抑えられて閉じてしまいます。
酒器には、伝統的なお猪口よりも、ボウル部分に適度な膨らみがあり口径がすぼまった白ワイン用グラスが適しています。グラス内で香気成分が滞留し、一口ごとに豊かなアロマが鼻腔へと抜けていく設計を体感できます。