ナスの漬物作りで最大の壁となるのが、漬けている最中やすぐに起こる「退色」と「褐変(かっぺん)」です。この現象には、ナス特有の成分と2つの化学反応が深く関係しています。
まず、ナスの皮に含まれる鮮やかな紫色の正体は、アントシアニン系色素の一種である「ナスニン」です。ナスニンは水に溶け出しやすい水溶性の性質を持っており、細胞壁が壊れると容易に外の漬け汁へ流出してしまいます。さらにナスニンは熱や酸化に極めて弱く、不安定な構造をしています。
もうひとつの要因が、ナスに含まれるポリフェノール酸化酵素(PPO)です。ナスを切ったり塩もみしたりして細胞が傷つくと、酵素が空気中の酸素と反応し、ポリフェノールを酸化させてメラニン様の色素(茶褐色の物質)を生成します。これがナスの塩漬けで変色防止が必要となる決定的な理由です。
つまり、美しい紫色をキープするためには、以下の3原則を同時に成立させる必要があります。
- 酸化酵素の活動を停止させる:適切な塩分濃度(2.5〜3.0%以上)による脱水と酵素活性の抑制
- 酸素を徹底的に遮断する:漬け汁の中に完全に沈める、またはポリ袋を真空に近い状態まで密閉する
- ナスニンを化学的に安定化(不溶化)させる:鉄イオンやアルミニウムイオン(ミョウバン)と結合させて安定した錯体色素を作る、あるいは弱酸性に保つ