京都のわらび餅を語る上で欠かせないのが、原料となる本わらび粉の圧倒的な希少性です。一般的な市販品の多くはタピオカデンプンや甘藷(サツマイモ)デンプンを主原料としており、無色透明で弾力が持続する特徴を持っています。対して、伝統的な製法で抽出される本わらび粉は、晩秋から冬にかけて山中深くで採取したワラビの地下茎を何度も水晒しして精製されます。その歩留まりは原料のわずか5〜6%以下に過ぎず、1kgあたりの取引価格は一般的なデンプンの数十倍に跳ね上がります。
この本わらび粉を熱湯と職人の手作業による強烈な練り上げで「α(アルファ)化」させると、独特の濃い茶褐色から漆黒へと変化します。この極めてデリケートな高分子構造こそが、口に入れた瞬間に体温でほどけるような官能的食感を生み出す源泉です。
しかし、この究極の状態は長くは続きません。デンプンは温度の低下とともに再結晶化(β化)が進み、時間とともに白濁して弾力が硬化していきます。取材に応じた京都老舗和菓子店の職人は「練り上げてから器に盛り、お客様の口に運ばれるまでの10分から15分間だけが、わらび餅が最も美しく命を宿す瞬間」と証言します。この一瞬の美学を味わうために、国内外の食通が京都へと足を運ぶのです。