鯛のあら炊きを作って「生臭い」と感じたとき、多くの人は「スーパーのアラが古かったからだ」と鮮度のせいにしがちです。しかし、調理科学の見地から分析すると、生臭さの主たる原因は揮発性塩基窒素(トリメチルアミン)と、血合肉に含まれるヘモグロビンの酸化にあります。
鯛の頭部やカマ、中骨周辺には複雑な骨の隙間が存在し、そこには毛細血管が集まる「血合い(腎臓・暗赤色筋)」が大量に残留しています。この血合いを中途半端に残したまま煮汁に放り込むと、血液中の鉄分と脂質が過熱によって酸化分解を起こし、特有の生臭い獣臭・魚臭物質へと変化します。
さらに見落とされがちなのが、鯛の皮表面を覆う粘液タンパク質(ムチン質)と、ヒレの根元にびっしりと潜む細かいウロコです。これらは常温の水で洗った程度では決して落ちません。水でサッと流してそのまま鍋に放り込み、水からコトコト煮始める調理法は、魚の臭みをスープ全体に均一に煮出しているのと同義です。生臭さを完全に遮断するには、臭みの発生源そのものを物理的・熱力学的に除去する工程が不可欠となります。