猫の瞳を覗き込んだとき、澄み渡る海のような青色に驚かされますが、実は猫の虹彩の中に「青い色素」は一切存在しません。これは動物生理学において広く知られた事実です。虹彩の色を決定づけているのは、黒褐色の「メラニン色素」の量と密度です。
虹彩の表面近くにメラニン色素がほとんど存在しない場合、外から入ってきた光は虹彩の微細な組織によって散乱します。このとき、波長の短い青い光だけが強く散乱され、人間の目に青く反射して届きます。これこそが空が青く見えるのと同じレイリー散乱と呼ばれる物理現象です。反対に、メラニン色素が豊富であれば光が吸収され、グリーン、ヘーゼル、イエロー、アンバー、カッパー(銅色)といった温かみのある色彩に変化します。
ここで多くの飼い主が抱くのが、「生まれたての子猫はみんな目が青い」という現象への疑問です。この幼少期特有の青い瞳はキトンブルーと呼ばれます。
生まれた直後の子猫は、虹彩へのメラニン色素の沈着がまだ完了していません。そのため、どんな将来の目の色(黄色や緑色など)を持つ個体であっても、生後しばらくは光の散乱によってぼんやりとした灰青色に見えます。では、このキトンブルーはいつまで続くのでしょうか。
獣医学的な発育指標によると、生後6〜8週齢あたりから虹彩にメラニン色素が沈着し始め、徐々に本来の瞳の色へと変化していきます。一般的には生後3〜6か月頃までに成猫としての瞳の色が定着します。成猫になっても青い瞳を維持できるのは、特定の遺伝子によって虹彩へのメラニン色素の生成が意図的に抑えられている猫種や個体積に限られます。