「IT重説対応物件」という表記を見ると、最新のスマートホームや特別なIoT設備が備わった特殊な部屋を想像する方がいるかもしれません。実態は部屋の構造や設備の優劣ではなく、「賃貸借契約を結ぶ際の法律手続きをオンラインで受領できる物件」を意味しています。
日本の不動産取引では、借主が不利益を被らないよう、契約締結前に国家資格者である宅地建物取引士が物件の権利関係や賃料、解約条件などを対面で説明することが宅地建物取引業法第35条によって義務付けられていました。この対面原則が社会実験を経て段階的に緩和され、2022年の改正宅地建物取引業法の施行によって賃貸だけでなく売買を含めた全面的な電子化が解禁された経緯があります。
国土交通省が公表している「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」の最新ガイドラインにおいても、双方向で映像と音声が途切れることなく視認・通話できる環境であれば、対面説明と同等の法的効力を持つことが明確に定められています。実務現場では、契約書類の授受をクラウドサイン等の電子署名で行う「電子契約」とセットで導入されるケースが主流となっており、来店不要の部屋探しと契約を支える中核インフラとして機能しています。
混同されやすい概念として「オンライン内見」が挙げられますが、この2つは法的位置づけが根本から異なります。オンライン内見は、不動産会社のスタッフが現地からスマートフォンで室内を映し出し、間取りや日当たりを確認する「任意の下見サービス」です。一方のIT重説は、契約締結に直結する「法定手続き」であり、宅建士自身が画面越しに顔を合わせ、資格証を提示して法的事項を解説しなければならないという厳格な規律が存在します。