筆者が取材現場で接する当事者たちの肉声は、統計の無機質な数値をはるかに超えた生々しい苦悩を浮き彫りにしています。核家族が密室化した現場では、日常的な孤立が精神と肉体を蝕んでいます。
都内の民間認可保育園で園長を務める女性は、送り迎えに訪れる保護者の表情について重い口を開きました。
「毎朝、目を血走らせて飛び込んでくる親御さんが後を絶ちません。夫婦ともに地方出身で親族の支援はゼロ。子どもが突然熱を出せば、夫と妻のどちらが仕事を休んで頭を下げるかで激しい諍いになる。『誰も助けてくれない、自分たちが倒れたらすべてが終わる』という極度の緊張感の中で暮らしている家庭ばかりです」
ワンオペ育児と孤立化は、母親だけの問題ではありません。共働きが標準化するなかで、家事と育児を分担しようとする父親もまた、長時間労働のプレッシャーと家庭責任の板挟みとなり、夫婦間の関係を冷え切らせていくケースが目立ちます。SNS上には「近所に知り合いが一人もいない」「日中、言葉を話す相手が赤ん坊しかいない」という悲鳴にも似た投稿が連日溢れかえっています。
さらに事態を悪化させているのが、高齢化に伴う介護問題の連鎖です。首都圏の地域包括支援センターで働く現役ケアマネジャーは、実情を次のように証言します。
「現在相談を受けるケースの大半は、高齢の夫婦のみ世帯です。80代の夫が認知症の妻を介護する『老老介護』や『認認介護』の現場では、共倒れのリスクが常に隣り合わせにあります。子ども世代もすでに別居して核家族を構えており、自分たちの子育てや住宅ローンで手一杯。物理的にも経済的にも親の面倒を見られない。核家族が世代を超えて分断された結果、各世帯が孤立無援のまま漂流しています」
これに拍車をかけるのが、ひとり親世帯の現状です。厚生労働省の調査でも浮き彫りになっている通り、母子世帯の相対的貧困率は先進諸国の中でも極めて高く、母親一人が非正規雇用のダブルワークで生計を立てながら家事と育児を一手に背負う過酷な現実が続いています。頼るべき親族を持たないひとり親家庭にとって、核家族という閉じた枠組みは、時に脱出困難な貧困の檻と化してしまうのです。