この大型プロジェクトが公に報じられたのは2009年秋から2010年にかけてのことでした。メガホンをとる監督として白羽の矢が立ったのは、『八月のクリスマス』や『四月の雪』で知られる韓国の巨匠ホ・ジノ監督。特撮ホラーとしての側面よりも、人間と異形との間に芽生える「極限のラブストーリー」に力点を置いたメロドラマ仕立ての再構築が目指されていました。
水野が命を捧げるヒロイン・春日藤千代役にキャスティングされたのは、日本アカデミー賞女優の蒼井優でした。日舞の家元としての凛とした佇まいと孤独を体現できる若手随一の実力派として、竹野内との初タッグに映画界は熱狂。製作には東宝だけでなく韓国の大手制作会社やハリウッド系出資会社も関与し、総製作費10億円規模の国際共同製作映画として2010年クランクイン、2011年東宝系全国公開というロードマップが引かれていました。
しかし、この壮大なプランは実現することなく、静かにお蔵入りを迎えました。映画関係者や当時の業界取材から浮かび上がった実写映画の中止理由には、複数の構造的要因が絡み合っています。
第一に、日韓米の三カ国にまたがる出資スキームの複雑化と、CG技術の予算超過問題です。気体化表現にハリウッド基準のハイクオリティVFXを導入しようとした結果、想定予算が雪だるま式に膨張。第二に、2011年3月に発生した東日本大震災に伴う映画興行界の停滞と、出資元の再編が直撃しました。さらに、ホ・ジノ監督が追求する繊細な作家性と、東宝が求めるメジャーエンタメ路線の間で脚本改稿が長期化し、主要キャストの拘束スケジュールが限界に達したことで、企画は凍結を余儀なくされたとされています。