短距離走における「速さ」の正体とは何か。日本陸上競技連盟が蓄積してきたバイオメカニクス研究や、100メートル走で9秒95を樹立した山縣亮太選手の走法を分析すると、一般人の思い込みを覆す技術的真実が見えてくる。
多くの人が「腕を力任せに振る」「歩幅(ストライド)を無理に広げる」ことに意識を奪われがちだ。だが、山縣亮太選手をはじめとするトップアスリートの最大の特徴は、スタートから最初の数歩における「重心の前傾維持」と「接地直後のブレーキを極限まで減らす技術」にある。足が体の前方で着地してしまうと、進行方向とは逆向きのブレーキ成分が発生する。一流スプリンターは重心の真下に素早く足を引き戻すように接地し、地面からの反力をダイレクトに前進力へ変換している。力みではなく、脱力とタイミングの精緻な一致こそが爆発的な推進力を生む。