明治8年(1875年)、内務省勧業寮が海外から種子を取り寄せて試作したのが、日本におけるプラタナスの歴史の夜明けでした。その後、日比谷公園の開設や銀座通りの緑化、東京・神宮外苑の整備など、国家を挙げた近代都市づくりの旗振り役として全国へ配備されていきます。プラタナスが街路樹に選ばれた理由の根底には、当時の日本が直面していた切実な都市問題がありました。
産業革命以降、急速に発展した都市部では、工場からの煤煙や自動車の排気ガスによる大気汚染が深刻化していました。プラタナスは極めて旺盛な生命力を誇り、煙害や汚染物質に対して驚くべき耐性を発揮します。さらに、大きく広がる掌状の葉は真夏の強烈な直射日光を遮り、アスファルトの蓄熱を抑える天然のパラソルとして機能しました。木造家屋が密集していた日本の都市において、水分を豊富に含む幅広の葉は延焼を防ぐ「防火樹」としても絶大な信頼を勝ち取ったのです。
植物学的な観点から整理すると、一般に「プラタナス」と総称される樹木には複数の種類が存在します。街を歩く人々が混同しやすいのがプラタナスとスズカケノキの違いです。スズカケノキ属(Platanus)には主に以下の3系統が存在します。
- スズカケノキ(鈴懸の木):西アジアから地中海原産。葉の切れ込みが深く、球果(実)が1本の柄に3個から6個ほど数珠つなぎにつく。
- アメリカスズカケノキ:北アメリカ原産。葉の切れ込みが浅く、球果は原則として1本の柄に1個だけ下がる。
- モミジバスズカケノキ:上記2種の自然交雑によってロンドンで生まれたとされる雑種。葉の切れ込みは中間的で、球果は通常1本の柄に2個から3個つく。
現在、日本国内の街路樹として植栽されているプラタナスの大半は、寒暑や病害に最も強い特性を受け継いだモミジバスズカケノキです。鈴を掛けたようなユニークな果実をつけることから、古くから親しみを込めてスズカケノキの名で呼ばれてきました。