ヒラメを焼いたときに食感がパサついてしまう最大の理由は、タンパク質が急激に熱変性を起こし、細胞内に蓄えられていた水分が外へ押し出されてしまうことにあります。魚肉のタンパク質は50℃を超えると凝固が始まり、65℃以上に達すると筋繊維が強く収縮して急激なドリップ(肉汁)の流出を招きます。強火で一気に焼き続けたり、何度もひっくり返して身に物理的な刺激を与えたりすると、保水構造が崩壊して水分が失われてしまいます。
ここで勝敗を分けるのが、身がふっくら仕上がる理由でもある「小麦粉のコーティング膜」の役割です。魚の表面に薄い粉の層を形成することで、急激な熱の伝わりを和らげる緩衝材の役割を果たし、身の内部から水分が蒸発するのを防ぎます。
ただし、小麦粉をつけるタイミングを誤ると逆効果に陥ります。多くの失敗例で見られるのが、「下ごしらえの段階で粉をまぶして放置してしまう」というケースです。魚の身からにじみ出た水分を小麦粉が吸うと、グルテンの粘りが発生してネチャついた厚い層になり、熱伝導を阻害するだけでなく皮目がベタつく原因になります。プロが実践する白身魚のムニエル失敗しないコツの鉄則は、「余分な水分を完全に拭き取った直後、フライパンへ投入する直前の数十秒で薄く均一に粉をまぶし、余分な粉はしっかり叩き落とす」という極めてスピーディーな工程にあります。