奈良公園の鹿と安全に、そして敬意を持って触れ合うためには、2026年現在の現場で推奨されている「正しいプロトコル」を忠実に実行する必要がある。
まず前提として、鹿に与えてよい食べ物は売店で販売されている「鹿せんべい(1束200円)」のみである。人間の食べるスナック菓子、パン、野菜などを与える行為は、鹿の消化器官を破壊し死に至らしめるため、厳格に禁止されている。鹿せんべいは保存料や着色料を一切使わず、小麦粉と米ぬかだけで製造された、鹿にとって最も安全な間食である。
安全に給餌を完了させるための鉄則は、以下の3ステップである。
- 購入直後の即時分散:せんべいを買った売店の周囲には、歴戦の鹿たちが待ち構えている。購入したら立ち止まらず、速やかに1〜2頭の落ち着いた鹿に近づく。カバンから少しずつ取り出そうとモタモタしていると、集団で囲まれて衣服を引っ張られる原因になる。
- 焦らさずテンポよく手渡し:お辞儀を1回確認したら、即座に口元へ差し出す。頭上に持ち上げて鹿を立ち上がらせる行為は、爪で人間を引っ掻く重大事故に直結するため厳禁である。
- 「空手(からて)サイン」の提示:すべてのせんべいがなくなったら、すぐに両手のひらを鹿の目の前にパッと広げて見せる。奈良公園の鹿は「両手を開いて見せる動作=もう餌を持っていない合図」として学習している。このサインを出すと、鹿は諦めて驚くほどあっさりと背を向けて去っていく。
また、子連れのファミリー層は特に注意が必要だ。鹿の視線と子どもの顔の高さがほぼ同じであるため、鹿がせんべいを奪い取ろうとした拍子に子どもの顔面を噛んだり、角の生え際で目を傷つけたりする危険がある。小さな子どもにせんべいを持たせるのは避け、保護者が抱きかかえた状態で与えるのが鉄則である。