本作を語る上で欠かせないのが、読者を戦慄させ続けたヒロインたちの狂気です。なかでも令児の担任教師である「柴ちゃん先生」こと柴沢由里の変貌ぶりは、作中屈指のインパクトを残しました。当初は生徒思いの清純な教師に見えた彼女ですが、令児の境遇を知るにつれて「自分が令児を救う唯一の存在になりたい」という歪んだ独占欲を肥大化させていきます。
柴ちゃん先生の暴走はとどまることを知らず、令児を監禁し、自らの人生や社会的地位を投げ打ってまで彼に執着しました。彼女の行動原理にあったのは、善意や正義感が裏返った純度100%のエゴイズムであり、人間の心の底にある底なしの孤独でした。
一方、令児を精神的に支配し続けた母親・夕子の過去も壮絶を極めます。かつて町の中心人物たちから搾取され、小説家・似非森浩との愛憎劇に敗れ、自暴自棄のまま町に囚われ続けた夕子。彼女が令児に注いでいたのは愛情ではなく、「自分と同じ地獄に縛り付けておきたい」という呪詛でした。物語終盤で明かされる過去編によって、夕子もまた閉鎖的な町の被害者であった事実が浮き彫りとなり、単なる悪役では片付けられない複雑な因縁が解消されていきました。