幕末史における最大の風雲児・坂本龍馬と、『銀魂』に登場する坂本辰馬。原作者の空知英秋氏は、史実の持つダイナミズムを巧みに抽出しつつ、物語をドライブさせるための絶妙な差別化を図っています。
最大の相違点は、活動のスケールとスタンスです。史実の坂本龍馬は土佐藩を脱藩後、勝海舟の私塾で航海術を学び、日本初の株式会社とも称される「海援隊(旧・亀山社中)」を結成。薩長同盟の仲介や大政奉還の建白など、日本という国家の枠組みを根底から変革するために奔走しました。一方、辰馬が率いるのは宇宙規模の巨大貿易艦隊「快援隊」です。辰馬は地球という一国家の政権争いには興味を示さず、「星々を繋ぐ貿易によって宇宙全体を豊かにし、戦争をなくす」という、さらに広大なビジョンを掲げています。
また、名前が「龍馬」から「辰馬」へ変更された点についても、空知作品特有の意図が読み取れます。『銀魂』では坂田銀時(坂田金時)、桂小太郎(桂小五郎)、高杉晋助(高杉晋作)のように、実在の歴史上の人物から一文字変える命名規則が採用されています。これは歴史パロディとしてのユーモアを保ちつつ、史実に縛られず自由な物語を展開するための仕掛けです。龍(辰)の文字を残すことでモデルへのリスペクトを明確にしつつ、土佐弁の豪快な語り口やピストルを愛用するスタイルなど、パブリックイメージとしての坂本龍馬像を極限までエンタメへと昇華させています。