上弦の伍・玉壺はなぜ敗れたか?過去の猟奇性と後任不在の深層

上弦の伍・玉壺はなぜ敗れたか?過去の猟奇性と後任不在の深層

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鬼滅の刃に登場する多くの鬼たちは、人間時代に過酷な境遇や悲劇を経験し、同情の余地を残したまま絶命していくケースが目立ちます。しかし、玉壺の過去はそうした「お涙頂戴」の文脈を完膚なきまでに拒絶する、純度100%の異常性で満ちています。

公式ファンブック『鬼殺隊見聞録・弐』で明かされた情報によると、玉壺の人間時代の名前は「益魚儀(まなぎ)」。彼はとある貧しい漁村の生まれでした。幼少期から奇怪な言動を繰り返し、周囲の住民から徹底的に気味悪がられて孤立していたといいます。その異常性が決定的に表出したのが、両親の水死事故でした。

漁に出た両親が海で遭難し、無残に水膨れして変わり果てた遺体となって海岸に打ち上げられた際、幼い益魚儀は深い悲哀に暮れるどころか、その破損した死体に「筆舌に尽くしがたい美」を見出しました。この衝撃的な原体験が、彼の死生観と歪んだ芸術観の根幹を形成することになります。以来、魚の死骸を大量に集めて壺に詰め込み、鱗を剥がして貼り合わせるなどの奇怪な創作に没頭するようになりました。

そしてある日、村の子供の一人が益魚儀の異様な行動をからかった際、激昂した益魚儀はその子供を絞殺。遺体を細かく解体し、自作の壺の中にすし詰めに加工するという猟奇殺人を犯しました。子供の親によって発見された益魚儀は激しい報復を受け、銛(もり)で滅多刺しにされて瀕死の状態で放置されます。その息絶え絶えの現場に偶然通りかかったのが鬼舞辻無惨でした。無惨はその常軌を逸した残虐性と美意識を気に入り、血を与えて鬼へと変生させたのです。

作中で玉壺が見せた「刀鍛冶たちを生きたまま串刺しにして生け花のように繋ぎ合わせた『鍛冶職人の断末魔』」という悪名高いオブジェは、鬼になってから身につけた残虐性ではなく、人間時代から何一つ変わっていない病的な欲望の延長線上にあったことが分かります。他者の肉体を自らの表現のための素材としてしか認識しないその精神構造は、同情の余地を一切排除した生粋のモンスターそのものでした。

伊藤 翔太
著者

伊藤 翔太

マネー知識やキャリア形成に役立つノウハウを、初心者にも分かりやすく解説するのが得意です。