いくら高級な薬用歯磨き粉でブラッシングし、マウスウォッシュで何度うがいを繰り返しても、ニンニクの匂いは根本から消え去りません。この苛立たしい現象の背景には、生化学的なアリシン分解のメカニズムが存在します。ニンニクを生で刻んだり加熱調理したりする過程で、無臭のアミノ酸である「アリイン」が酵素「アリイナーゼ」と接触し、強烈な刺激臭を持つ「アリシン」へと瞬時に化学変化を遂げます。
問題はここからです。アリシンは胃や腸で消化・吸収される過程で代謝され、最終的に「アリルメチルスルフィド(AMS)」をはじめとする揮発性硫黄化合物へと姿を変えます。このAMSは極めて分解されにくい難分解性の物質であり、腸管から門脈を通って血液中へとダイレクトに流れ込みます。全身の血管を循環した悪臭成分は、最終的に肺胞のガス交換を通じて吐き出す息そのものを汚染し、さらに全身の汗腺から皮脂とともに滲み出します。これこそが、口内を清掃しても悪臭が消えない最大の理由です。
医学系研究機関の臨床データによると、体内に取り込まれたニンニク臭が消えるまでの時間は約16時間から48時間に及びます。胃の中に残っている段階の匂い(初期段階)であれば数時間で通過しますが、血液中に溶け込んだAMSが肝臓で完全に代謝され、肺や皮膚から完全に排泄されるまでには丸2日を要するケースも珍しくありません。体臭から漂う原因と対策を理解しないまま口内ケアだけに終始することは、燃え盛る火元を放置して立ち上る煙だけを扇風機で吹き飛ばそうとする行為に等しいといえます。