なぜ2022年に56本のアーチを架けた打者が、その後の2シーズンで打率.240〜.250台に落ち込み、ファンの溜息を誘うことになったのか。球界関係者やアナリストの間で囁かれた「不調の理由」には、複合的な身体的・技術的要因が絡み合っていました。
第一の要因は、2023年WBC出場に伴う調整の前倒しと、それに起因するスイングプレーンの乱れです。春先の国際球への対応や重圧の中で、知らず知らずのうちにバットのヘッドが下がり、ボールの下を叩くファウルチップやポップフライが急増しました。当時の取材記録を振り返ると、打撃コーチ陣からは「打球を上げようとする意識が強すぎて、下半身の並進運動と上半身の回転のタイミングがコンマ数秒ズレていた」という指摘がなされています。
第二に、セ・リーグ各球団による徹底的な「村上包囲網」です。捕手陣は執拗に胸元の厳しいコースを突いて上体を起こさせ、外角低めに沈む変化球で体勢を崩す配球を徹底しました。三冠王の残像に苦しむ村上自身も、手記や独占インタビューで当時の胸中をこう吐露しています。
「打席に入る前から『打たなければならない』という強迫観念に縛られていた。身体が硬直して、ボールが見えているのにバットがスムーズに出てこない。自分のスイングが何なのか、分からなくなっていた時期があった」
暗雲を切り裂く転機となったのが、2024年終盤の負傷離脱期間に行われた打撃動作の抜本的見直しでした。最新のハイスピードカメラと弾道測定器を用いたバイオメカニクス解析を導入し、トップポジションにおけるグリップの位置をわずかに胸元へと近づけ、無駄なヘッドの遊びを排除。前足をステップさせた際の「軸足(左足股関節)の粘り」を取り戻したことで、強引に引っ張る悪癖が解消されたのです。
センターからレフト方向へ放り込めるかつての広角打法が戻ったことで、内角球にもバットが最短距離で出るようになり、2025年シーズンにおける打率.280台、OPS.960超えという力強い数字への「V字回復」が結実しました。