衣類に発生するカビは、大きく分けて「白カビ」と「黒カビ」の2種類が存在する。両者の生物学的特性と繊維への侵食レベルは根本から異なるため、同一の処置を施しても効果は得られない。状態に応じた正確なアプローチを踏むことが、衣類を復活させる絶対条件となる。
白カビと黒カビの決定的違い: ・白カビ:主にホコリや皮脂をエサとして「繊維の表面」に胞子を広げる。菌糸が浅いため、自力での殺菌・除去が十分可能。
・黒カビ:繊維の内部深くまで菌糸を伸ばし、強固な「メラニン色素」を分泌して繊維を染色してしまう。自力での色素脱色には高度な漂白技術を要する。
まず、比較的軽度な白カビの服の落とし方から解説しよう。白カビを発見した場合、最初のステップは「物理的な隔離と胞子の除去」である。室内で払うと部屋中に胞子が舞うため、必ず屋外に出てマスクを着用し、洋服ブラシや乾いた布で表面のカビを優しく払い落とす。その後、薬局などで手に入る濃度70〜80%程度の服のカビへのエタノール消毒が極めて高い効果を発揮する。カビの生えていた部分の裏表に消毒用エタノールをスプレーし、菌のタンパク質を変性させて死滅させる。色落ちが心配なデリケート素材の場合は、目立たない裾の折り返し部分で試してから塗布するのが鉄則だ。
続いて洗濯機ではなく、バケツを用いた単独のつけ置き洗いへ移行する。ここで主役となるのが服のカビに対する酸素系漂白剤(過炭酸ナトリウム)だ。40〜50℃程度のぬるま湯に規定量の酸素系漂白剤を完全に溶かし、30分から最長2時間程度浸け置く。活性酸素の泡が繊維の隙間に残った菌糸を酸化分解し、同時に染み付いた皮脂汚れを浮き上がらせる。なお、皮脂汚れの分解補助や初期の服のカビ取りに重曹を混ぜる裏ワザも知られているが、重曹単体にはカビを殺菌する力はほとんどない。重曹は弱アルカリ性による油分分解と消臭の補助剤と位置づけ、主軸はあくまで酸素系漂白剤に置くべきである。
一方で、厄介を極めるのが黒カビの除去だ。黒カビが分泌するメラニン色素は、通常の洗剤はおろか酸素系漂白剤の標準濃度ですら容易には分解できない。白無地の綿や麻、ポリエステル素材であれば、強力な酸化力を持つ黒カビが生えた服への塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)の使用が視野に入る。しかし、塩素系漂白剤は少しでも染料が含まれる色柄物に使用すると、一瞬で地色が完全に白く脱色され不可逆のダメージを負う。さらにウールやシルク、ナイロンなどの動物性繊維や特定化学繊維は、塩素によって繊維そのものが溶解・脆化するため使用は厳禁だ。色柄物やデリケート素材に生えた黒カビは、無理に家庭で落とそうとせず、後述するプロの手に委ねるのが賢明な選択となる。