空前のブレイクを果たしたペドロ&カプリシャスでしたが、前野曜子の在籍期間は実質わずか2年足らずでした。1973年、絶頂期の中で彼女は突如としてグループを脱退します。当時の音楽誌報道や関係者の回想録によると、前野曜子の脱退理由は単一のトラブルではなく、複数の要因が絡み合っていました。急激なスターダムに伴う過密な営業スケジュールへの疲弊、本来志向していたジャズやブルースといったディープな音楽性と歌謡グループとしての商業的要請との乖離、そして何より繊細すぎる彼女のメンタルヘルスと健康面の不安が引き金となったと報じられています。
そして彼女の後を継ぎ、2代目ボーカルとして加入したのが高橋真梨子でした。後に『ジョニィへの伝言』や『五番街のマリーへ』で国民的人気を確立した高橋と、初代の前野。二人のボーカリストが持つ音楽性の差異は、昭和ポップス史における最高峰の比較論題として現在も研究されています。
高橋真梨子が卓越した安定感と大衆性でグループを国民的スターへと押し上げたのに対し、前野曜子の歌声には、聴く者の胸を締め付ける刹那の危うさが宿っていました。この決定的な違いこそが、脱退から半世紀以上を経た現在でも「初代の衝撃が忘れられない」と語り継がれる最大の要因です。