ほそ川のお品書きは極めて潔く、無駄な創作料理はありません。訪れたなら誰もが必ず注文する王道の組み合わせが存在します。
代表格である「せいろ」(冷たい十割蕎麦)は、淡い緑がかった美しい麺線で供されます。ただし、江戸前の本格蕎麦らしく一斤の盛り付けは極めて上品で軽やかです。大人の男性やしっかり味わいたい方なら、最初から「二枚」または追加注文(追加せいろ)を見越しておくのが鉄則です。多くの常連客が「一枚目はそのまま、あるいは塩で手繰り、二枚目はつゆをくぐらせて楽しむ」という流儀で堪能しています。
そして、せいろと双璧をなす絶対的人気メニューが「穴子天ぷら(穴子の天麩羅)」です。東京湾や近海で獲れた大ぶりの一本穴子を丸ごと豪快に揚げた逸品で、箸を入れると「サクッ」という心地よい破裂音とともに、中から湯気と脂の乗ったふっくら肉厚の白身が現れます。油切れが驚くほど軽快で、重たさを一切感じさせない職人技の結晶です。
また、蕎麦の風味を最もダイレクトに感じられる「そばがき」も見逃せません。熱々で運ばれるそばがきは、まるで上質な和菓子のように滑らかで、口に含んだ瞬間に蕎麦の濃厚な甘みと香りが鼻腔を抜けます。お酒を嗜む方であれば、季節の純米酒とともに「わさび漬け」や「焼き海苔」を合わせる、粋な蕎麦前を存分に堪能できます。