サントリー角ハイボールのCM史を語る上で欠かせないのが、カウンターの内側に立つ角ハイボールCM歴代女優のバトンタッチです。2008年にスタートしたこのシリーズは、単なるタレントの交代劇ではなく、時代ごとの世相とターゲット層の拡大に合わせて極めて戦略的に構築されてきました。
初代店主を務めたのは小雪でした。当時、ウイスキーといえば「中高年男性が飲むアルコール度数の高いお酒」という固定観念が根強く、若年層の消費は完全に冷え切っていました。そこで制作陣が打ち出したのが、凛とした美しさと神秘的な佇まいを持つ小雪が切り盛りする小さなバーです。坂口憲二やおぎやはぎ(矢作兼・小木博明)といった親しみやすい男性陣が常連客としてカウンターに並び、彼女の手から供されるハイボールに感嘆する構図は、「ウイスキー=敷居の高い大人の嗜み」というイメージを保ちつつ、ソーダ割りというカジュアルな飲み方を鮮烈に提示しました。
続いて2011年に2代目店主として抜擢されたのが菅野美穂です。角ハイボールCM小雪と菅野美穂の交代は、ブランドのフェーズ転換を象徴する出来事でした。小雪時代の静謐でやや緊張感のあるオーラから一転、菅野美穂が演じたのは明るく快活で、誰もがふらりと立ち寄りたくなる親しみやすい下町の洋食店や居酒屋の看板娘的な空気感でした。共演者には塚本高史やピエール瀧が名を連ね、から揚げとハイボールを合わせる「ハイカラ」の提案など、食中酒としての定着を決定づけた時期です。
そして2014年以降、現在に至るまで圧倒的な支持を集めているのが3代目店主の井川遥です。井川遥が体現するのは、小雪の持つ艶っぽさと菅野美穂の持つ親近感を高次元で融合させた「大人の包容力」でした。常連客役の角ハイボールCM加瀬亮と田中圭の存在感も見逃せません。仕事終わりの疲労や日常の小さな葛藤を抱えて暖簾をくぐる彼らの表情が、井川遥の優しい眼差しと一杯のハイボールによってほどけていくドラマ性は、まさに現代の大衆が渇望する癒やしの情景そのものです。さらに近年では矢本悠馬や西田尚美らも加わり、世代や性別を超えた豊かな人間交差点が描き出されています。