貧保耐三(びんぼっちゃま)がなぜ背中の布地を失うに至ったのか。その設定の根底には、ギャグ漫画の枠を超えた切実なバックストーリーと、作者・小林よしのり氏による鋭い人間観察が存在します。
作中の公式設定によると、貧保家はかつて日本でも指折りの名家・大富豪でした。しかし、耐三が物心ついた頃に家業が破綻し、一家は路地裏の掘っ立て小屋で極貧生活を送ることを余儀なくされます。その際、耐三が放った伝説的な決め台詞が「落ちぶれてすまん」です。この言葉には、貧困に喘ぎながらも過去の栄光と上流階級としての品格を捨てきれない、彼の複雑な美学が凝縮されています。
前だけスーツ(びんぼっちゃま服)が作られた理由は、極限の布不足にあります。1着分の生地を購入する金すらない貧保家では、布地を半分に節約して正面だけを完璧に仕立てることで、「対面する相手に対して礼儀を失しない」というギリギリのプライドを保ったのです。小林よしのり氏が当時のインタビューや回想録で明かした制作秘話によると、バブル経済絶頂期に「見栄を張る日本人」を極限まで戯画化する意図からこのアイデアが閃いたとされています。