深夜の伊良部大橋。中央付近に停めた車から降りた男女にとって、その夜は祝福に満ちた人生の節目になるはずだった。男性が切り出したプロポーズに女性がうなずく。応えた笑顔。二人の空間は喜びに包まれた。しかし、感情の高ぶりは判断の境目を容易にかき消す。感極まった男性は橋の欄干をまたぎ、外側の縁石の上に立った。
足元は幅わずか数拾センチ。直下には暗闇の海が広がる。酒は飲んでいなかった。だが、夜間の海風と踏み外したほんの一瞬の足元が、決定的な運命を分けた。男性はバランスを失い、30メートル下の水面へ一直線に落下の途についた。悲鳴と通報。駆けつけた救急隊を待っていたのは、静まり返った深夜の海原だけだった。