ネット上の掲示板や知恵袋などで定期的に浮上するのが、「くりそつって東北の方言ですか?」「関西弁だと思って使っていた」という方言説の誤解と真相をめぐる議論です。結論から言えば、日本各地の方言調査資料や方言辞典をいくら紐解いても、「くりそつ」を固有の方言として位置づけている地域は存在しません。
それにもかかわらず、なぜ多くの人が方言と錯覚してしまうのでしょうか。言語社会学的な見地から現場の証言を分析すると、主に以下の2つの背景が浮かび上がってきます。
第1に、音韻(響き)が持つ独特の土着感です。「くり」と「そつ」という短母音の組み合わせは、標準的な共通語のスマートさとは対照的に、東北地方の擬態語や九州の民俗語彙を連想させる素朴で泥臭い語感を持っています。耳慣れない若い世代が「どこかの地方で昔から伝わる訛りではないか」と直感的に受け取ってしまう構造があるのです。
第2に、家庭内における言語伝達のねじれです。高度経済成長期からバブル期にかけて上京し、テレビカルチャーに直撃された親や祖父母の世代が、地元へ帰郷した際や家庭内の雑談で「くりそつ」を多用しました。その結果、その背中を見て育った子どもたちが「うちの地域固有の方言」あるいは「実家特有の訛り」だと信じ込んだまま成長したケースが全国で多発しています。業界発祥のスラングが、昭和の家族団らんを通じてあたかも伝統語のように刷り込まれていった現象は、マスメディアが家庭言語を塗り替えていった典型的な証拠といえます。