ネット上の掲示板や検索サジェストを見ると、「銀座ろくさん亭は時代の流れに取り残されて経営難になったのではないか」という穿った見方が散見されます。しかし、この言説は道場六三郎という料理人の本質を見誤った誤解に過ぎません。
事実、銀座8丁目の旧店舗は営業終了のその日まで連日満席であり、黒字経営を維持していました。では、なぜあえて栄光ある銀座の地を去ったのか。そこには、「高級店に鎮座し続けることへの危機感」がありました。道場氏はかつて、『料理の鉄人』に出演した際も「伝統的な日本料理のしがらみを壊し、誰もが喜ぶ旨いものを作りたい」と公言し、保守的な和食界から異端児扱いされた歴史があります。
富裕層や接待客だけを相手にする高額割烹のモデルは、少子高齢化と若者の和食離れが進む将来の日本で持続可能なのか。自分が培った弟子たちの技術を、もっと幅広い層に日常の贅沢として届けるべきではないか。旧店舗の幕引きは、かつて鉄人として古い和食の常識を打ち破った道場氏が、人生の最終章において「自らのブランドの敷居を自ら解体する」という前代未聞のイノベーションを仕掛けた結果だったのです。