皮膚が損傷を受けた際、生体は決まったプログラムに従って組織を修復します。この創傷治癒過程は大きく「出血・止血期」「炎症期」「増殖期」「成熟期(リモデリング期)」の4つのフェーズに分類されます。このうち増殖期の後半から成熟期への移行部で起きるのが「上皮化」です。
日常の臨床現場で多くの患者がつまずきやすいのが、「肉芽形成(にくげけいせい)」と「上皮化」の混同です。両者は修復の役割が根本から異なります。
肉芽形成とは、欠損した皮膚の深部(真皮や皮下組織)を埋め戻すための「土台作り」です。毛細血管と線維芽細胞が集まり、水分とコラーゲンに富んだ鮮紅色のぷるぷるとした肉芽組織が作られます。一方の上皮化は、出来上がった肉芽というベッドの上に「屋根」をかける作業に相当します。傷の周囲にある健常な皮膚の端や、残存した毛包・汗腺などの付属器からケラチノサイト(角化細胞)が分裂し、欠損部の中心に向かって滑るように移動していく現象を表皮細胞の遊走と呼びます。この遊走した細胞同士が接触し、接触阻害によって移動を停止して層を形成した瞬間、上皮化が達成されます。
つまり、肉芽形成が「深さを埋める下地工事」であるのに対し、上皮化は「表面を閉鎖する防水仕上げ工事」といえます。下地である良質な肉芽が育っていない乾いた傷や壊死組織の上には、表皮細胞が遊走できず上皮化は絶対に起こりません。