日本社会において「ホモ」という呼称がここまで深い傷跡を残している背景には、昭和から平成の地上波テレビ番組が牽引した「からかい文化」の構造的加害が存在します。
2017年「保毛尾田保毛男」復活騒動が暴いた社会の亀裂
象徴的な事件として記憶に新しいのが、2017年9月に放送されたフジテレビ系特番『とんねるずのみなさんのおかげでした30周年記念SP』における人気キャラクター「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」の復活劇です。青ひげを生やし、語尾に特徴的なイントネーションをつけ、男性に色目を使っては「ホモでいらっしゃいますか?」と詰め寄られて「保毛尾田でございます」と返す演出は、1980年代後半から1990年代にかけて大ヒットを記録しました。
しかし、特番放送直後からLGBTQ当事者団体や市民から猛烈な抗議が殺到。当時のフジテレビ社長が定例記者会見で「不快な思いを抱かれた方々がいることに対して大変遺憾に思っており、謝罪を申し上げたい」と公式に頭を下げる事態へと発展しました。この出来事は、かつて「単なるお笑い」「誰も傷つけていないコント」と見なされていた演出が、現実社会で暮らす何十万人もの性的マイノリティを学校や職場でいじめの標的に晒し続けてきた残酷な装置であったことを白日の下に晒しました。
「当事者が嫌がる理由」:SNSや知恵袋に溢れる生の苦悩
当事者への取材や各種アンケート、SNS上の告白に目を向けると、「ホモ」という呼称に対するリアルな痛みが浮き彫りになります。
ある30代の会社員男性は、自著や手記のなかで次のように振り返っています。
「中学校の休み時間、クラスの男子がふざけて抱きついただけで『うわっ、お前ホモかよ、近寄るなよ!』と教室中が大爆笑に包まれた。自分が男性を好きだと自覚し始めていた私は、冷や汗が止まらず、その場から消え去りたい恐怖に震えていた。あの笑い声は、今でも深夜の悪夢として蘇る」
Yahoo!知恵袋やコミュニティ掲示板にも、「友人が悪気なく『あの店員、ホモっぽくない?』と言った瞬間に息が詰まった」「親がテレビを見ながら『ホモは気持ち悪い』と言っているのを聞いて、絶対に実家を出ようと決意した」といった声が無数に投稿されています。周囲にとっては日常の些細な軽口であっても、当事者にとっては「お前の存在は笑いものであり、異常である」と存在を全否定されるナイフとして突き刺さるのです。