植物が生き残るための戦略として、自家受粉と他家受粉はそれぞれ相反する強みと弱みを抱えています。農業生物資源研究所(現・農研機構)などの研究知見に基づき、両者の特性を体系的に整理した比較データが下表です。
自家受粉の圧倒的なメリットは、「繁殖の確実性」と「省エネルギー性」です。ハチなどの昆虫を誘うために甘い蜜を作ったり、目立つ花びらを広げたり、香気成分を空気中に放散したりする必要がありません。植物体にとって糖分や芳香物質の合成は莫大なエネルギーを消費する作業ですが、自家受粉植物はそのリソースを種子の充実や根の成長に回すことができます。
その反面、致命的なデメリットとなるのが遺伝的多様性の低下と近交弱勢です。遺伝的多様性が失われると、環境の急激な変化や新たな病害虫の襲来に対して集団全体が同じ弱点を持つことになり、一瞬で全滅するリスクを背負います。さらに、近親交配が何世代も繰り返されると、生存に不利な有害劣性遺伝子がホモ接合化し、発芽率の低下、生育不良、奇形といった「近交弱勢(インブリーディング・ディプレッション)」が顕在化します。
このリスクを防ぐため、被子植物の半数以上は「自家不和合性の仕組み」を発達させました。これは、自分の花粉が柱頭についても、花粉と雌しべが持つ「S遺伝子座」の型が一致した場合に、花粉管の侵入を化学的にブロックして受精を拒絶する精巧な自己認識システムです。アブラナ科やナス科の野生種などに見られるこの仕組みにより、植物は近親交配を強力に回避しています。