回復することなく視界が閉ざされた場合、1分1秒を争う急性期疾患が進行しています。その最たる例が「目の心筋梗塞」とも呼ばれる網膜中心動脈閉塞症です。
この疾患では、網膜の内層全体に酸素と栄養を供給する唯一の本幹動脈が血栓で完全に遮断されます。網膜の神経細胞は虚血に極めて弱く、網膜中心動脈閉塞症の予後は発症から治療介入までの経過時間によって決定づけられます。動物実験および臨床データによれば、完全虚血から約90分から120分を超えると網膜組織は不可逆的な壊死に陥り、以後に血流を再開させても視力の回復は期待できません。実臨床での視力予後は非常に厳しく、最終的に0.1以上の有効視力を保持できる割合は全体の20%未満にとどまると報告されています。眼球マッサージ、前房穿刺による眼圧降下、高圧酸素療法などの緊急処置を速やかに開始するため、発症の瞬間からの迅速な行動が要求されます。
もう一つの眼科救急の筆頭が急性緑内障発作です。眼球内を循環する房水の出口(隅角)が急激に閉塞し、通常10〜21mmHg前後に保たれている眼圧が50〜70mmHg以上へと異常上昇します。眼球がカチカチに硬くなり、激しい眼痛と頭痛、吐き気をもよおし、視界が急速に白くかすんでいきます。頭痛や嘔吐の激しさから内科や脳神経外科を受診して発見が遅れる事例が散見されますが、急性緑内障発作の治療は数時間から24時間以内の緊急処置が絶対条件です。浸透圧利尿剤の点滴投与や縮瞳薬の点眼、レーザー虹彩切開術を行って眼圧を急降下させなければ、高圧によって視神経乳頭が圧迫破壊され、わずか数日で永久的な失明に至ります。
さらに、外傷や加齢に伴って生じる網膜剥離にも前触れが存在します。網膜剥離の前兆症状として頻度が高いのは、暗い部屋や目を閉じたときに光が走って見える「光視症」や、視野の中に黒い点や糸くずが無数に漂う「飛蚊症」の急激な悪化です。網膜に裂け目(網膜裂孔)ができた段階でレーザー光凝固術を行えば入院を回避できる場合が多いですが、剥離が網膜の中心部(黄斑部)に及んでしまうと、手術で復位できたとしても深刻な視力障害や歪み(変視症)が後遺症として残ることになります。