大手企業の人材開発部門やビジネスマナー研修を手掛ける機関のヒアリング調査によると、新入社員や若手社員が役員や社外の取引先に対して「社長の訓話、大変胸を打ちました」と発言し、注意を受けるケースが頻発しています。日常的に耳にする美しい言葉であるにもかかわらず、なぜビジネスの現場では問題視されるのでしょうか。
ここに胸を打つ誤用の注意点の本質が潜んでいます。「胸を打つ」という動詞は、本質的に「聞き手側が自分の感情の揺れを自己評価する言葉」です。相手のスピーチや提案に対して「胸を打たれました」と告げることは、無意識のうちに相手を審査員席から品評するような上下関係の逆転を生みかねません。敬語の文脈において、相手の行為を批評・評価する語彙を目上に向けることは原則として禁忌とされています。
そこで必須となるのが、胸を打つビジネス敬語表現へのシフトと感銘を受けるとの使い分けです。
役員や取引先、社外の講演者に対して強い共感を伝えたい場合は、自己の感動を客観的かつ敬意を込めて表現する言葉を選びます。
- NG表現:「先ほどの部長のお言葉、大変胸を打ちました」
- 適切な言い換え1:「先ほどの部長のお話に、深く感銘を受けました」
- 適切な言い換え2:「示唆に富むお話を拝聴し、強く胸に響くものがございました」
- 適切な言い換え3:「身の引き締まる思いで拝聴し、深く胸を打たれる思いがいたしました」(※「〜の思いがいたしました」と謙抑のクッションを挟む応用形)
ビジネスパーソンとしての力量は、湧き上がった感動をその場の感情任せに発するのではなく、相手との関係性に即した最適な語彙へ瞬時に変換できるかどうかに現れます。