ネット上の掲示板やSNSでは、「物損事故にすると保険会社から治療費が1円も支払われない」という情報が散見されますが、これは半分正しく、半分は不正確な誤解です。実務の正確なルールを把握しておく必要があります。
実際には、事故証明書が物損事故のままであっても、相手方の任意保険会社に「人身事故証明書入手不能理由書」という所定の書面を提出すれば、保険会社が社内判断として治療費や通院交通費、慰謝料を支払うケース自体は存在します。そのため「物損のままでも相手保険会社が払ってくれているから安心だ」と油断してしまう被害者が少なくありません。
しかし、ここにこそ示談交渉における落とし穴があります。人身事故証明書入手不能理由書による支払いは、あくまで保険会社側の「事実上の暫定措置」に過ぎません。相手損保は、被害者の通院期間が2〜3ヶ月を超えたあたりで「物件事故報告書を見る限り、極めて軽微な低速接触であるため、これ以上の治療は事故との因果関係がない」と主張し、一方的に一括対応を打ち切ってくる確率が跳ね上がります。
また、実況見分調書の作成有無が大きな禍根を残します。人身事故であれば、警察官が双方立ち会いのもとでメジャーを当て、スリップ痕や衝突地点をミリ単位で計測した公的文書が作成されます。一方、物損事故で作成される「物件事故報告書」には現場見取図や詳細な証言記録は記載されません。後日、加害者側が「相手が急ブレーキを踏んだ」「相手がセンターラインを割ってきた」などと虚偽の主張を展開し、過失割合で争いになった際、被害者側は自身の正当性を立証する決定的な武器を失ってしまうのです。