つるバラを美しく咲かせるための最大の疑問である「なぜ枝を横に倒すのか」。その根底には、植物が生存戦略として備えている頂芽優勢(ちょうがゆうせい)という生理現象が存在します。
植物は枝の先端にある芽(頂芽)から「オーキシン」と呼ばれる成長ホルモンを分泌し、下部にある側芽の伸長を強く抑制します。自然界において光を求めて高く伸びるための仕組みですが、つるバラの枝を直立させたまま放置すると、枝の最頂部にしか養分が行き届かず、先端に数輪咲くだけで下部は葉ばかりになってしまいます。
そこで枝を水平あるいは斜め45度程度に倒す「誘引」を行うと、頂点という概念が消失します。枝の各節に位置する側芽がすべて「自分が一番高い位置にある」と認識し、オーキシンの抑制が解除されます。その結果、休眠していた側芽が一斉に活動を開始して花枝(花をつける新しい小枝)を立ち上げ、枝の端から端まで均一に花芽がびっしりとつく劇的な変化が起こるのです。
ただし、品種の樹勢や枝の太さによって最適な角度は異なります。太く硬い主幹に近い枝は無理に真横に倒さず斜め60〜45度に留め、中太のしなやかな側枝を水平に近く倒すといった「傾斜のグラデーション」をつけることが、株の力を損なわずに花数を最大化するプロの技法です。