音楽理論(楽典)において、調性(キー)を表す際にもドイツ語表記は世界的なスタンダードとして機能しています。音大受験や指導現場において必須となる調性表記のルールを押さえておきましょう。
長調(Dur)と短調(Moll)の表記ルール
ドイツ語では、長調を「Dur(ドゥーア=ラテン語の『硬い』durumに由来)」、短調を「Moll(モル=ラテン語の『柔らかい』mollisに由来)」と呼びます。
- 長調の表記:主音を大文字で書き、ハイフンでDurをつなぐ(例:C-Dur=ツェードゥーア=ハ長調、Fis-Dur=フィスドゥーア=嬰ヘ長調)。
- 短調の表記:主音を小文字で書き、ハイフンでMollをつなぐ(例:a-Moll=アーモル=イ短調、c-Moll=ツェーモル=ハ短調)。
楽譜のタイトルや楽曲解説で「Sinfonie Nr. 5 c-Moll(ベートーヴェン交響曲第5番 ハ短調)」のように表記されるのはこの規則に基づいています。
「音名(絶対的)」と「階名(相対的)」の混同を防ぐ
日本の音楽教育現場で長年議論されているのが、「ドレミ」を絶対的な音の高さ(固定ド)として使うか、調性の中での役割(移動ド)として使うかという問題です。
ドイツ音名は、いかなる調性であっても周波数が固定された「絶対的な音名」として機能します。例えば、F-Dur(ヘ長調)の楽曲において、主音である「ファ」の音を階名では「ド」と歌う(移動ド唱法)ことがあっても、音名としてはどこまで行っても「F(エフ)」です。この二重構造を明確に区別して意思疎通できる点こそ、プロや吹奏楽指導者がドイツ音名を手放さない本質的な理由です。