「乗客が不満を抱くなら、なぜ鉄道会社はクロスシートを増やさないのか」という疑問は常に投げかけられます。しかし、JR各社や大手私鉄がロングシート化を推し進めてきた背後には、輸送需要の爆発的増加と戦い続けた切実な経緯がありました。
高度経済成長期からバブル期にかけて、首都圏の主要路線では混雑率が200%から250%を突破する異常事態が常態化しました。当時主流だった国鉄の急行型・近郊型車両(113系や115系)のセミクロスシートでは、ドア付近に押し寄せる乗客が奥の通路へ進めず、乗降扉周辺で激しい圧迫事故や数分単位の駅停車遅延が連日発生していたのです。
大手私鉄の車両設計OBは次のように述懐しています。「クロスシートの通路はすれ違いが困難で、奥のボックス席に空きがあっても混雑時は誰も入れないデッドスペースになる。1編成で運べる人数を極限まで増やし、開いた扉からスムーズに流し込むには、座席を壁際に寄せるしか生き残る道がなかった」。
JR東日本が1990年代初頭に投入した209系や、その後のE231系・E233系への移行は、まさにその歴史の集大成でした。さらに東北地区(701系の投入)や名古屋地区、九州地区など、地方都市圏でも「短編成化による高頻度運行」と引き換えにロングシート化が進みました。限られた線路容量と限られた両数の中で、ラッシュ時の積み残しをゼロにするための合理的な選択が、全国的なロングシートの席巻をもたらしたのです。