多くの読者が息を呑み、涙を流したクライマックス。逃亡劇の果てに追い詰められた2人を待っていたのは、残酷でありながらもかすかな光を灯す衝撃的な結末と真相でした。
最大の伏線回収は、武命が口にしていた「人を殺した」という事実の裏側にあります。武命はいじめの主犯格である同級生の少女・加茂をカッターナイフで切りつけたことは事実でしたが、加茂は一命を取り留めており、実際には死んでいませんでした。血まみれで倒れ伏す現場の光景と極限のパニックによって、武命自身が「自分は人殺しになった」と思い込んでいたに過ぎなかったのです。
さらに千尋の心奥に巣食っていた瑠花の死の真相もまた、過酷な現実を突きつけます。千尋は自分が瑠花を見殺しにしたと自責の念に囚われ続けていましたが、瑠花が抱えていた絶望は学校のいじめだけに留まらず、周囲の無理解や家庭環境を含めた複雑怪奇な閉塞感の中にありました。千尋一人の力で食い止めることなど到底できなかったという冷徹な事実を、武命との対話を通じて千尋は受け入れていきます。
警察の包囲網が狭まる廃墟の屋上、逃げ場を失った2人は、かつての瑠花と同じように「死」の淵へと追いやられます。しかし、そこで千尋が下した決断は、破滅への投身ではなく、武命に「生きて罪を償い、やり直すこと」を懇願することでした。救えなかった瑠花の記憶を抱えたまま、目の前で生きている武命の手を強く握り返す千尋。過去の亡霊から脱却し、泥臭くも現実世界で生きていく道を選び取るラストシーンは、読む者の胸を締め付けずにはいられません。