近年のベーカリー市場における購入者の嗜好データやSNS上の口コミを追跡すると、パンのトレンドは「単なる甘さ・柔らかさ」から「粉本来の旨味と水分保持力」へとシフトしている実態が浮かび上がる。
大手パンポータルサイトや全国のベーカリー愛好家が集うコミュニティの動向を分析すると、一時期市場を席巻した生食パン(生クリームや練乳を多用した甘みの強い角食)の過熱ブームは完全に落ち着きを見せている。現在、専門店の棚で圧倒的な支持を集めているのは「高加水ハード系」と「伝統製法のヴィエノワズリー」である。
都内の有名ブーランジュリーを巡る30代女性は、自らのSNSで次のように綴っている。
「以前はふわふわの柔らかいパンばかり選んでいたけれど、加水率90%超えのチャバッタやロデヴ(フランス南部の伝統高加水パン)に出会って価値観が変わった。外側のクラストはしっかり香ばしく焦がされているのに、内側のクラムはお餅のようにみずみずしくてジューシー。噛めば噛むほど小麦の甘みがあふれて、オリーブオイルと粗塩だけで極上のディナーになる」
また、個人経営のベーカリー店主たちの証言によると、週末の午前中に最も早く完売するのは「バゲット・トラディシオン」や「クロワッサン」といった基本技術が試される品目であるという。消費者の舌が肥えた結果、奇をてらったトッピングよりも、自家製ルヴァン種の風味や発酵バターの折り込み精度といった「職人の基礎力」を評価する傾向が顕著になっている。