理論上のシミュレーションだけでは海の本質は見抜けない。文部科学省の支援のもとで推進されている学術研究船「白鳳丸」共同利用研究プロジェクトは、荒れ狂う外洋に直接分け入り、物理・化学・生物が複雑に絡み合う海の深部をダイレクトに測定し続けている。
荒波に揺られながら投下されるCTD(電気伝導度・水温・水深測定器)や採水器が持ち帰った生データは、研究室のデスク上では予測できなかった劇的な変化を告げていた。深海を巡るコンベアベルトのような海洋大循環が、極域の氷の融解によって弱まり、熱と物質の輸送が滞り始めているのだ。船上の研究員たちが目の当たりにしたのは、教科書に書かれた海の常識が音を立てて崩れ去る瞬間だった。