家庭で秋刀魚を焼いた際に感じる「生臭さ」や「パサパサ感」は、決して個体の良し悪しだけで決まるものではありません。最大の原因は、加熱前の「水分処理」と「熱伝導の温度管理」という2つの工程が抜け落ちている点にあります。
魚の表面には、時間経過とともに脂質が酸化した皮膜や、雑菌の繁殖によって生じるアルカリ性揮発成分「トリメチルアミン」を含んだ生臭いドリップが浮き出ます。これらを洗い流さず、あるいは拭き取らずにそのまま加熱すると、水分とともに生臭さの成分が身の内部へ逆戻りし、仕上がり全体に不快なにおいが定着してしまいます。
そこで決定打となるのが、さんま生臭さを消す酒と塩の相互作用です。秋刀魚全体に料理酒(または清酒)を軽く振りかけて数分置くことで、アルコールが揮発する際に生臭み成分を抱き込んで空気中へ蒸発させる「共沸効果」が働きます。さらに、適量の塩を当てることで浸透圧が働き、身の奥に潜む余分な生臭い水分を外へと絞り出すことが可能になります。
もうひとつの失敗である「身のパサつき」は、塩を振ってから放置する時間と、加熱時の火力調整に起因しています。多くの家庭で見られる誤りが、塩を振ってすぐに焼き網に乗せてしまう、あるいは逆に塩を振ったまま1時間以上放置してしまうケースです。さんま塩振るタイミングと時間の黄金律は、「加熱の15分から20分前、塩分濃度は魚の重量に対して1.5〜2.0%」です。この時間を厳守することで、タンパク質がほどよく凝固してジューシーな肉汁を閉じ込め、ふっくらとした身の弾力を保つことができます。