長さのアメリカ、質量のベラルーシに対し、「立体的な巨大乗用車」として世界を震撼させたのが、アラブ首長国連邦(UAE)の王族であり、「レインボー・シーク」の異名をとるシェイク・ハマド・ビン・ハムダン・アル・ナヒヤーン氏が特注した「ハマーH1X3」だ。
この車は、軍用車ハンヴィーの民生版であるハマーH1を、縦・横・高さすべての寸法で正確に「3倍(体積比で27倍)」に拡大して製作された。全高5.8メートル、全長14メートルという外観は、遠目には普通のハマーに見えるが、隣に人間や通常サイズの乗用車が並んだ瞬間に縮尺の狂った特撮映画のような錯覚を起こさせる。動力には水陸両用の重機用ディーゼルエンジンが4基組み込まれており、実際に最高速度30km/h程度で自走することが可能だ。
車内はもはや車のキャビンではなく「2階建ての一軒家」として設計されている。1階部分にはエンジンルームのほかトイレと洗面台が設置され、階段を上った2階フロアには周囲を360度見渡せるガラス張りのリビングルームが広がる。洗面シンクから蛇口をひねれば水道水が流れ、エアコン完備の空間で優雅にティータイムを過ごすことができるのだ。
しかし、こうした常軌を逸した巨大車の維持には天文学的なコストがかかる。ハマーH1X3専用の特注タイヤやドライブトレインの部品はすべて一点物の削り出しであり、破損時の修理費は数百万円単位で吹き飛ぶ。アメリカン・ドリームにしても、26本のタイヤ交換だけで数十万〜数百万円、空調やプール循環ポンプの補修、保管施設の空調管理費用を含めれば、年間維持費は数千万円規模に達する。実用性を完全に放棄した「道楽の極致」であり、石油王や大富豪のプライベートミュージアムの後ろ盾がなければ一瞬で維持不能に陥るのが実情である。