注意点が多い一方で、はちみつが持つ薬理学的なポテンシャルが獣医臨床の現場でポジティブに評価される場面もあります。代表例が犬の咳止め効果です。乾燥する季節や、ケンネルコフ(伝染性気管気管支炎)、小型犬に多発する気管虚脱に伴う喉のイガイガ・空咳に対し、はちみつの高い粘弾性が咽頭部の粘膜を物理的にコーティングし、外部刺激を遮断して気道の過敏反応を鎮める働きが認められています。
さらに、加齢に伴い嗅覚や味覚が衰え、頑なに食事を拒絶するシニア犬の食欲不振改善においても、はちみつは強力な切り札となります。老犬は口腔内の乾燥や歯周病による痛みを抱えていることが多く、ドライフードを食べる気力を失いがちです。温めたぬるま湯にはちみつを微量溶かし、立ち上る甘い芳香を嗅がせることで摂食中枢を刺激し、分解負担の少ないブドウ糖を即効性のエネルギー源として補給できる利便性があります。
近年、プレミアムフード愛好家の間で注目を集めるマヌカハニーの犬への安全性と効果についても、正しい知識が求められます。ニュージーランド原生のマヌカの花から採取されるマヌカハニーには、特有の抗菌物質「メチルグリオキサール(MGO)」が豊富に含まれており、ピロリ菌対策や口腔環境の清胃・抗菌に寄与します。犬に対しても基本的には安全ですが、注意すべきは抗菌活性の強さを示すグレード(UMF値)です。活性が高すぎる製品(UMF15+以上やMGO500+以上)は、胃粘膜が敏感な犬にとって刺激が強すぎ、かえって胃腸の不調を招く恐れがあります。愛犬に使用する際は、UMF10+前後のマイルドな医療・食用グレードを選び、耳かき1杯程度から慎重に様子を見る必要があります。