試薬需要を支えるため、主に米国東海岸の大西洋沿岸では毎年数十万匹規模のカブトガニの生き血採取が組織的に実施されています。繁殖のために砂浜へ上陸した個体が捕獲され、バイオ関連企業の専用施設へとトラックで移送されます。
施設に搬入された個体は洗浄・消毒された後、器具に固定され、心臓に近い関節部から太い針を刺して体内の血液の約30%を抽出されます。採血作業自体は数分から十数分で終了し、企業側の公式マニュアルでは「採血後は速やかに海へ再放流されるため生命に別状はない」と説明されてきました。
しかし、海洋生物学者や保護団体の追跡調査によって、現場の実態と放流後の生態リスクが明らかになってきました。近年の研究報告によると、カブトガニの採血後の死亡率は推定15〜30%に達するとされ、生還した個体であっても深刻な貧血や見当識障害に陥り、移動速度の低下や産卵行動の消失が確認されています。
乱獲や海岸開発の影響も重なり、アメリカカブトガニは絶滅危惧種(IUCNレッドリストで危急種/VU)に指定されています。カブトガニの卵を主食として数千キロの渡りを行う渡り鳥「コオバシギ」の個体数激減など、沿岸生態系全体への波及被害も深刻な国際問題として議論が続いています。