『余命10年』が多くの観客の涙を誘い、胸を打つ最大の要因は、この作品が原作者・小坂流加氏の命を削った実話的背景に基づいている点にあります。静岡県三島市出身の小坂氏は、数万人に一人と言われる難病原発性肺高血圧症を発症しました。この病は肺動脈の圧力が異常に上昇し、心臓に過度の負担がかかることで心不全などを引き起こす国の指定難病です。
著者は病魔と闘いながら、自らの分身ともいえる主人公・高林茉莉(まつり)の物語を執筆。2007年に第3回新風賞を受賞した単行本が初出となりました。その後、編集部からの熱烈なオファーにより大幅な加筆修正を行い、文庫化に向けた推敲を重ねました。しかし、2017年2月、文庫版の刊行を目前にして小坂氏は38歳の若さで永眠。完成した見本本を目にすることは叶いませんでした。
生前の小坂氏を知る出版関係者や遺族の手記によると、彼女は病床でも「誰かの心に残るものを書きたい」とキーボードを叩き続けたといいます。映画の中で茉莉が抱く「生きたいのに死を意識せざるを得ない葛藤」や「愛する人を作ってはいけないという拒絶」は、小坂氏が日常の中で感じていた生々しい実情がそのまま投影されているのです。