喉に何かが詰まっているような感覚がありながら、内視鏡検査を受けても粘膜に炎症や腫瘍が見当たらない状態を、東洋医学では「梅核気(ばいかくき:梅の種が喉に引っかかっているような感覚)」、西洋医学では咽喉頭異常感症、あるいはヒステリー球(グロブス症候群)と呼びます。「ヒステリー」という語源から感情的な取り乱しを連想しがちですが、実態は極めて物理的な筋肉の過緊張と自律神経の失調によって生じる機能性の身体症状です。
人間の喉には、呼吸をするときに気道を広げ、食物を飲み込むときに食道へと送り込む「輪状咽頭筋(りんじょういんとうきん)」をはじめとする精緻な喉頭筋群が存在します。これらの筋肉の収縮と弛緩は、無意識のうちに自律神経(交感神経と副交感神経)によってミリ秒単位で制御されています。ところが、職場での対人葛藤や過労、家庭内の重圧などによって強いストレスに晒され続けると、交感神経が過剰に優位となり、喉周辺の毛細血管が収縮すると同時に輪状咽頭筋が持続的な痙攣・緊張状態に陥ります。
その結果、物理的な異物は存在しないにもかかわらず、内側から締め付けられるような喉の圧迫感や狭窄感が生じるわけです。田町三田こころみクリニックの臨床知見や厚生労働省関連の労働衛生データでも、精神的緊張や抑うつ状態に伴う身体症状として、咽頭部の違和感や呼吸の浅さが上位に挙げられています。食事中は食物が通過する物理的刺激によって筋肉の緊張が一時的にリセットされるため「固形物は普通に飲み込めるのに、何もない生唾を飲み込むときだけ喉がつかえる」という奇妙なギャップが生まれる点も、この疾患の決定的な特徴です。